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知らないと後悔するマウスピース矯正の限界と真実
マウスピース矯正の真実~透明な装置に隠された現実~
「見た目が気にならない」「取り外しができる」そんな魅力的な特徴で人気を集めているマウスピース矯正。
近年、テレビCMや雑誌広告で目にする機会が増え、従来のワイヤー矯正に代わる新しい選択肢として注目されています。確かに、金属のブラケットが目立つワイヤー矯正と比べると、透明なマウスピースは審美性に優れています。

しかし、その便利さの裏側には、あまり語られることのない「限界」が存在することをご存知でしょうか?
私は歯科医師として多くの患者さんの矯正治療に携わってきました。マウスピース矯正は素晴らしい治療法ですが、すべての方に適しているわけではありません。
この記事では、マウスピース矯正の限界と真実について、歯科医師の立場から正直にお伝えします。これから矯正治療を検討されている方が、後悔のない選択をするための情報をご提供できればと思います。
マウスピース矯正とは?基本の理解から始めよう
マウスピース矯正は、透明な熱可塑性プラスチックで作られたアライナー(マウスピース)を使って歯を少しずつ動かしていく矯正方法です。

患者さんの歯型に合わせて作製された複数のマウスピースを、治療計画に沿って順番に装着していくことで、理想的な歯並びへと導いていきます。最も有名なのは「インビザライン」というブランドですが、現在は様々なマウスピース矯正システムが存在しています。
従来のワイヤー矯正と比較した際の主な特徴は以下の通りです。
- 目立たない:透明なので装着していても気づかれにくい
- 取り外し可能:食事や歯磨きの際に外せる
- 痛みが比較的少ない:ワイヤー矯正に比べて痛みを感じにくい傾向がある
- 通院頻度が少ない:6〜8週間に1回程度の通院で済むことが多い
これらの特徴から、特に社会人や審美性を重視する方々に人気があります。
しかし、この便利な治療法にも限界があります。特に重度の歯列不正や複雑な症例では、マウスピース単独での治療効果に制限があることが、最新の研究でも明らかになっています。
マウスピース矯正が苦手とする症例とは?
マウスピース矯正は万能ではありません。特に以下のような症例では、効果が限定的だったり、そもそも適応外となる場合があります。
1. 大きな歯の移動が必要なケース
マウスピース矯正は基本的に歯を傾斜させる動き(傾斜移動)が主体となります。そのため、歯根から歯を平行移動させる必要がある大幅な移動が必要なケースでは限界があります。
特に出っ歯で口元を大きく引っ込める必要がある場合、マウスピース矯正では歯だけが内側に倒れ、歯茎が前に残ってしまうことがあります。
ある研究によると、マウスピース矯正単独での治療精度は約50%とされています。これは2009年の研究結果(41%)から向上しているものの、まだ改善の余地があることを示しています。
2. 複雑な歯の動きを要するケース
45度以上の歯の回転や、歯を上下に大きく動かす必要がある症例(特に開咬や過蓋咬合)では、マウスピース矯正だけでは十分な効果が得られないことがあります。
また、奥歯の移動を伴う治療や複数の歯を同時に移動させる必要がある場合も、マウスピースだけでは十分な力が加えられず、期待した効果が得られないことがあります。
歯科矯正の専門医として言えることは、複雑な症例ほど、従来のワイヤー矯正や補助装置の併用が必要になる可能性が高まるということです。
3. 顎の骨格的な問題がある場合
顎のずれが大きい場合や、上下の顎の大きさに著しい不調和がある場合は、歯を動かすだけでは根本的な解決にならないことがあります。
このような骨格的な問題を抱えている方の場合、マウスピース矯正だけでは限界があり、場合によっては外科的な処置を併用した矯正治療(外科矯正)が必要になることもあります。
患者さんの中には「マウスピース矯正ならどんな症例でも治せる」と思われている方もいますが、残念ながらそうではありません。適切な診断と治療計画が何よりも重要です。
マウスピース矯正の成功率を左右する重要な要素
マウスピース矯正の成功は、いくつかの重要な要素によって大きく左右されます。特に以下の点が治療結果に大きな影響を与えます。
1. 歯科医師の経験と技術
マウスピース矯正は比較的新しい治療法です。そのため、十分な経験と技術を持った歯科医師を選ぶことが非常に重要です。
経験豊富な歯科医師は、患者さんの口腔内の状態を正確に診断し、適切な治療計画を立てることができます。また、治療中に生じる問題にも迅速かつ適切に対応することができるのです。
マウスピース矯正では、3Dスキャナーやデジタル技術を活用した精密な診断が重要です。最新のデジタル機器を導入し、それらを使いこなせる歯科医師を選ぶことで、より正確な診断と効果的な治療が期待できます。
歯科医院選びは、矯正治療の成否を決める最も重要な要素の一つと言えるでしょう。
2. 患者さん自身の装着時間の遵守
マウスピース矯正最大の特徴である「取り外しができる」という利点は、同時に最大の弱点でもあります。
効果的な治療のためには、1日20時間以上のマウスピース装着が必要です。食事や歯磨き以外の時間はほぼ常に装着している必要があるのです。
この装着時間を守れないと、歯が計画通りに動かず、治療が遅れたり、思うような結果が得られないことがあります。自己管理が苦手な方や、忙しくて装着時間を確保できない方には向いていない可能性があります。
患者さんの中には「取り外しができるから楽」と考える方もいますが、実際には高い自己管理能力が求められることを理解しておく必要があります。
3. 治療計画の精度と追加調整の必要性
マウスピース矯正では、コンピューターシミュレーションに基づいて治療計画が立てられますが、このシミュレーションと実際の歯の動きには差が生じることがあります。
2022年の研究では、マウスピース追加(リファインメント)を行うことで高い治療精度が達成されることが報告されています。リファインメントを含めた場合、70〜95%の精度が確認されているのです。
つまり、最初の治療計画通りに歯が動かないケースでも、途中で調整を行うことで良好な結果を得られる可能性が高いということです。しかし、この追加調整には時間とコストがかかることを理解しておく必要があります。
マウスピース矯正で後悔しないための選択ポイント
マウスピース矯正で良い結果を得るためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
1. 適切な歯科医院・矯正歯科医の選び方
マウスピース矯正の経験が豊富な歯科医師を選ぶことが最も重要です。以下のポイントをチェックしましょう。
- 矯正歯科の専門的な知識と経験があるか
- マウスピース矯正の症例数が十分にあるか
- 3Dスキャナーなどの最新設備を導入しているか
- 治療前のカウンセリングが丁寧か
- 治療のメリット・デメリットを正直に説明してくれるか
特に重要なのは、「この症例はマウスピース矯正に向いていない」と正直に伝えてくれる医師かどうかです。
歯科医師の調査によると、約6割の歯科医が「間違った方法によるマウスピース矯正を提供している歯科医院がある」と回答しています。適切な歯科医院選びが治療成功の鍵となるのです。
2. 自分の症例がマウスピース矯正に適しているかの見極め
軽度から中等度の歯列不正であれば、マウスピース矯正で十分な効果が期待できます。しかし、以下のような場合は注意が必要です。
- 大きく出ている前歯を引っ込める必要がある
- 歯が大きく回転している
- 開咬や過蓋咬合などの複雑な咬み合わせの問題がある
- 顎のずれが大きい
これらの症例では、マウスピース矯正だけでは十分な効果が得られない可能性があります。正確な診断と適切な治療法の選択が重要です。
3. 治療期間と費用の現実的な理解
マウスピース矯正の治療期間は症例によって大きく異なります。また、途中で追加のマウスピースが必要になることも多く、当初の予定より治療が長引くことがあります。
費用面でも、追加調整が必要になった場合は追加費用が発生する可能性があります。治療開始前に、これらのリスクについても十分に説明を受け、理解しておくことが大切です。
どうですか?マウスピース矯正の限界と真実について、少し理解が深まりましたか?
マウスピース矯正の最新技術と将来性
マウスピース矯正は日々進化しています。最新の技術開発により、以前は対応が難しかった症例にも適用できるケースが増えてきました。
1. デジタル技術とAIの活用
最新のデジタル技術とAIを活用することで、より精密な診断と治療計画が可能になっています。3Dスキャナーによる精密な口腔内データの取得や、AIによる歯の動きの予測精度の向上などが進んでいます。
2025年現在、これらの技術はさらに進化し、治療の精度と予測性を高めています。特にAIと連動したデジタル矯正技術の研究が進み、従来の経験則に基づく手法から、数値的根拠を重視したアルゴリズムベースの治療が広がっています。
2. 補助装置の併用による治療効果の向上
マウスピース矯正の限界を補うために、様々な補助装置が開発されています。アタッチメント(歯に付ける小さな突起)の改良や、マウスピースと併用できる補助装置の開発により、より複雑な歯の動きも可能になってきています。
これらの技術進化により、マウスピース矯正の適応範囲は着実に広がっています。しかし、すべての症例に対応できるわけではないことも忘れてはいけません。
3. 治療期間短縮のための新しいアプローチ
マウスピース矯正の治療期間を短縮するための新しいアプローチも研究されています。歯の移動を促進する補助的な装置や技術の開発が進んでおり、将来的には治療期間の大幅な短縮が期待されています。
ただし、歯の移動には生体的な限界があるため、安全性を確保しながら治療期間を短縮することが重要です。無理な歯の移動は歯根吸収などのリスクを高める可能性があることを理解しておく必要があります。

まとめ:マウスピース矯正で成功するための5つのポイント
マウスピース矯正は、適切な症例選択と正しい治療計画、そして患者さん自身の協力があれば、素晴らしい結果をもたらす治療法です。最後に、マウスピース矯正で成功するための5つのポイントをまとめます。
- 経験豊富な矯正歯科医を選ぶ:マウスピース矯正の経験が豊富で、メリット・デメリットを正直に説明してくれる歯科医師を選びましょう。
- 自分の症例が適応かどうかを確認する:すべての症例がマウスピース矯正に適しているわけではありません。自分の症例に最適な治療法を選びましょう。
- 装着時間を守る:1日20時間以上の装着が必要です。この時間を守れるかどうか、自分の生活スタイルと照らし合わせて考えましょう。
- 追加調整の可能性を理解しておく:治療途中で追加のマウスピースが必要になることがあります。時間的・金銭的な余裕を持っておくことが大切です。
- 定期的なメンテナンスの重要性を認識する:治療後も定期的なメンテナンスが必要です。歯の後戻りを防ぐためのリテーナー装着も重要です。
マウスピース矯正は、正しい知識と適切な選択があれば、多くの方にとって素晴らしい選択肢となります。この記事が、皆さんが後悔のない矯正治療を選ぶための一助となれば幸いです。
矯正治療は人生の長い時間を考えると決して短くない投資です。正しい情報を得て、ご自身に最適な治療法を選んでください。
【著者】別府 優子 べっぷゆうこ歯科・矯正クリニック 院長
九州大学歯学部卒業後、複数の歯科医院にて一般歯科および矯正治療の臨床経験を積む。
「すべての患者様が安心して通える歯科医院」を理念に掲げ、患者様一人ひとりの口腔状態に合わせた治療計画を重視している。
歯周病・インプラント・矯正治療・マイクロスコープ治療など、幅広い分野の研鑽を続けながら、患者様の「自分の歯を長く守る」ためのサポートに力を注いでいる。
主な所属・修了コース
WDC(女性歯科医師の会)所属
船越歯科歯周病研究所 ベーシックコース/マスターコース修了
Just Post Graduate 10ヶ月コース修了
下川公一臨床セミナー アドバンスコース受講
近未来オステオインプラント学会
日本臨床歯周病学会
日本顎咬合学会
日本歯科東洋医学会
日本顕微鏡歯科学会
経基臨塾
日本矯正歯科学会






