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予防歯科が健康寿命を延ばす~その重要性と実践法
予防歯科とは?健康寿命との深い関係
皆さんは「健康寿命」という言葉をご存知でしょうか?単に長生きするだけでなく、健康で自立した生活を送れる期間のことを指します。日本の現状では、平均寿命と健康寿命の間に男性で約8.7年、女性で約12.0年もの差があるのです。
この差を縮めるために、国を挙げて健康寿命の延伸に取り組んでいます。そして、その重要な柱の一つが「歯・口腔の健康」なのです。
予防歯科とは、患者さんに定期的に来院していただき、むし歯や歯周病などのお口の中の病気が発症したり、悪化したりしないように検査、治療、生活指導を行うことです。そうすることで、普段からお口の中の環境を整えて、歯の寿命を長持ちさせることができるのです。
お口の健康は全身の健康と密接に関わっています。歯周病は心臓病や糖尿病などの生活習慣病、さらには認知症とも関連していることが近年の研究で明らかになってきました。
予防歯科が健康寿命を延ばす5つのメリット
予防歯科に定期的に通うことで、将来自分に残る歯の本数は大きく違ってきます。また、高齢になっても介護に頼らない「健康寿命」も延ばすことができるのです。
具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
1. 虫歯や歯周病を早期発見&未然に防げる
むし歯は初期のうちは痛くなく、自分でも気づきません。痛みを感じる頃には、かなり進行していることが多いのです。
歯周病に至っては、痛みを感じることなく静かに進行し、気がついたら歯がグラグラして抜けそうになっていることも珍しくありません。
予防歯科に定期的に通うことで、むし歯で痛い思いをする前に、また削る量が少ないうちに治療することができます。また歯周病の主な原因である歯石を取り除くことで、歯周病が進行しにくい状態を作り、維持することができるのです。
2. 健康な歯を長く維持し続けられる
歯は一度失うと二度と元には戻りません。むし歯治療で歯を削ることは歯の寿命を縮めます。いかに歯を削ることなく健康な状態を長く維持するかが大事です。
歯を失えば失うほど食べられるものが減り、食事の楽しみは半減します。食事の楽しみはQOL(生活の質)において非常に重要な要素であることは言うまでもありません。
「8020運動」をご存じでしょうか?80歳で自分の歯を20本以上残そうとする運動で、厚生労働省や日本歯科医師会が推進しています。自分の歯が20本残っていれば、一生おいしく食事をすることができ、全身の健康にもつながるのです。
3. 健康寿命が延びる
歯の残存本数が多いほど、健康寿命が長くなることが近年の研究で明らかになってきました。
お口の機能が低下し、自分で噛めなくなってくると、栄養状態に偏りが生じやすくなります。特に、お肉などのタンパク質の摂取が困難になり、低栄養の状態に陥ります。
低栄養状態が長期的に継続してしまうと全身の栄養状態がさらに悪化し、フレイル状態になってしまい、最終的には不健康や要介護の状態に近づいていくという悪循環が生じてしまいます。
ここでいうフレイルとは日本老年医学会が定義した「健康な状態と要介護状態の中間の状態」で、身体機能や認知機能に低下がみられる状態を指します。
お口の不健康によって栄養状態の悪循環に入ってしまうと、フレイルから一気に要介護状態へ進んでしまう可能性が高くなるのです。
4. 認知症のリスクを減らせる
歯の残存本数が少ない人ほど、脳の海馬や前頭葉の容積が小さくなり、認知症のリスクが高まることが分かっています。
また、歯周病菌が血流に乗って全身を巡ることで、脳の炎症を引き起こし、認知機能の低下に関与している可能性も指摘されています。
定期的な歯科検診と予防ケアを受けることで、歯周病を予防・管理し、間接的に認知症リスクの軽減につながる可能性があるのです。
5. 医療費・時間の節約になる
予防歯科によって、治療範囲や費用を抑えることができます。例えば、虫歯が浅い段階で治療すれば、小さな詰め物や被せ物で済みますが、虫歯が進行して神経まで達してしまうと、歯の根っこの治療や歯を抜くなどの大掛かりな治療が必要になります。
また、治療に伴う時間や苦痛も増えることが予想されます。予防歯科は、一見すると費用がかかるように見えるかもしれませんが、長期的に見れば、治療費と治療時間を節約できる有効な投資だと言えます。
日本人の予防歯科意識は低い?海外との比較
日本では痛くなったら歯医者に通う人が大半ですが、欧米諸国では痛みが出る前に予防歯科へ通うことが一般的です。
予防先進国と言われるスウェーデンでは80歳以上の方のほとんどに20本以上歯が残っています。一方、日本では80歳以上の人で歯が20本以上残っている人の割合は全体の40%程度です。
年々増えてはいるものの、スウェーデンと比べると半分ほどの数値です。この差はどこから来るのでしょうか?
それは「予防」に対する意識の違いです。スウェーデンでは子どもの頃から予防歯科の重要性を教育され、定期的な歯科検診が生活習慣として定着しています。
日本でも近年、予防歯科の重要性が認識されつつありますが、まだまだ「痛くなったら歯医者に行く」という考え方が主流です。健康寿命を延ばすためには、この意識を変えていく必要があるでしょう。
予防歯科で実践すべき口腔ケア方法
健康寿命を延ばすために、予防歯科でどのようなケアを実践すべきでしょうか?具体的な方法をご紹介します。
1. 定期的な歯科検診とプロフェッショナルケア
3〜6ヶ月に一度の定期検診を受けましょう。歯科医院での専門的なクリーニング(PMTC)は、自分では落とせない歯垢や歯石を除去し、むし歯や歯周病の予防に効果的です。
PMTCとは専用の薬品とブラシで歯を徹底的に清掃することです。歯の表面に付着した、飲食物の着色汚れが落ち、歯も明るくつややかになり、見た目も綺麗になります。
2. 正しい歯磨き習慣の確立
毎日の歯磨きは、口腔ケアの基本です。しかし、ただ磨けばいいというわけではありません。正しい方法で磨くことが重要です。
歯ブラシは鉛筆持ちで、小刻みに動かしながら一本一本丁寧に磨きましょう。特に歯と歯茎の境目は歯周病の原因となる歯垢がたまりやすいので、意識して磨くことが大切です。
また、歯間ブラシやフロスを使って、歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間も清掃しましょう。
3. フッ素の活用
フッ素入りの歯磨き粉を使用することで、歯の表面を強化し、むし歯を予防することができます。また、歯科医院でのフッ素塗布も効果的です。
特に子どもの頃からフッ素を活用することで、生涯にわたって歯を守る基盤を作ることができます。
4. バランスの良い食生活
糖分の多い食べ物や飲み物の摂取を控え、野菜や果物、タンパク質をバランスよく摂ることが大切です。
また、よく噛んで食べることで唾液の分泌が促進され、口内の自浄作用が高まります。唾液には抗菌作用もあり、むし歯や歯周病の予防に役立ちます。
5. あいうべ体操の実践
「あいうべ体操」は、口の周りの筋肉を鍛え、口腔機能を向上させる簡単な体操です。「あ」「い」「う」「べ」と口を動かすことで、舌や口周りの筋肉を意識的に動かします。
この体操は、口腔内の筋肉を強化し、唾液の分泌を促すことで、虫歯や歯周病の予防に寄与します。また、正しい呼吸法を身につけることができ、全身の健康にも良い影響を与えるとされています。
最新の予防歯科アプローチ:プロバイオティクスの活用
予防歯科の新しいアプローチとして注目されているのが、プロバイオティクスを用いたバクテリアセラピーです。
従来の予防歯科では、むし歯や歯周病の原因となる微生物を徹底的に除去することに重点が置かれてきました。しかし、いくら微生物を取り除いてもゼロになることはなく、一定の時間が経つとその量は元に戻ってしまいます。
そこで考えられたのが、微生物を取り除くのではなく、うまく活用することで口の中の健康を保つという考え方です。
ロイテリ菌の効果
ラクトバチルス・ロイテリ菌は、WHO/FAOが要求している人間の健康に有益な影響を与える「プロバイオティクス」のすべての条件をもっている乳酸菌です。
この菌は口の中においても、歯周病菌や虫歯菌の増殖を抑制する効果、重度から中程度の歯肉炎を緩和、さらには口臭の抑制効果や病原菌の温床となる歯垢の形成も抑制する効果を持っています。
バクテリアセラピーの実践
病原菌を有益な効果を発揮する微生物で駆逐する治療法がバクテリアセラピーです。ヒト本来の微生物と共存するという状況を壊すことなく、病原菌の比率を下げ、悪影響を排除するという考え方です。
このバクテリアセラピーを従来の除菌とバランスよく併用することで、口の中に発症するむし歯や歯周病といった微生物による病気を予防することができます。
特に高齢になると、細かい歯磨きが難しくなることもあります。そのような場合でも、バクテリアセラピーによって口内環境を整えることで、歯の健康を維持することが可能になるのです。
まとめ:健康寿命を延ばすための予防歯科の重要性
予防歯科は、単に歯の健康を守るだけでなく、全身の健康や健康寿命の延伸にも大きく貢献します。むし歯や歯周病を予防し、自分の歯で食事を楽しむことができれば、栄養状態も良好に保たれ、フレイルや認知症のリスクも低減できるのです。
日本では欧米諸国と比べて予防歯科の意識がまだ低いですが、「痛くなってから歯医者に行く」という考え方から「定期的に検診を受けて予防する」という考え方に変えていくことが大切です。
定期的な歯科検診とプロフェッショナルケア、正しい歯磨き習慣、フッ素の活用、バランスの良い食生活、そして最新のプロバイオティクスアプローチなど、様々な方法を組み合わせて実践することで、歯の健康を守り、健康寿命を延ばすことができます。
健康な歯で美味しく食事を楽しみ、活動的な生活を送るために、ぜひ予防歯科を生活の一部に取り入れてみてはいかがでしょうか。
当院では、患者さま一人ひとりに合わせた予防プログラムをご提案しています。定期検診やクリーニングはもちろん、正しい歯磨き指導や最新の予防法まで、トータルにサポートいたします。ぜひお気軽にご相談ください。
べっぷゆうこ歯科・矯正クリニックでは、患者さまの大切な歯を守るため、予防歯科に力を入れています。健康寿命を延ばし、いつまでも自分の歯で美味しく食事を楽しむために、ぜひ一度ご来院ください。
【著者】別府 優子 べっぷゆうこ歯科・矯正クリニック 院長
九州大学歯学部卒業後、複数の歯科医院にて一般歯科および矯正治療の臨床経験を積む。
「すべての患者様が安心して通える歯科医院」を理念に掲げ、患者様一人ひとりの口腔状態に合わせた治療計画を重視している。
歯周病・インプラント・矯正治療・マイクロスコープ治療など、幅広い分野の研鑽を続けながら、患者様の「自分の歯を長く守る」ためのサポートに力を注いでいる。
主な所属・修了コース
WDC(女性歯科医師の会)所属
船越歯科歯周病研究所 ベーシックコース/マスターコース修了
Just Post Graduate 10ヶ月コース修了
下川公一臨床セミナー アドバンスコース受講
近未来オステオインプラント学会
日本臨床歯周病学会
日本顎咬合学会
日本歯科東洋医学会
日本顕微鏡歯科学会
経基臨塾
日本矯正歯科学会